窓からの風景

私の住んでいたコンドミニアム The Paradiumは、KL市内の東側に位置し、朝の交通渋滞で有名だったJalan Tun RazakとJalan Ampangの交差点に近い所にあった。このコンドミニアムを選んだのは、セキュリティが良いというのが建前の理由だったが、ほんとうは日本人が少なかったからである。単身赴任だったゆえに、暇を持て余した日本人の奥様たちの茶飲み話で、あらぬ噂などふり撒かれてはたまらないと考えたのだ。

Paradiumに住んでいた日本人は大使館員のご家族数世帯だけで、その他の住人は西欧系、現地マレー系、現地中華系の人々だった。他のコンドミニアムに比べるとローカル色が濃く、新築の3LDKでバス+トイレが2室付きだったが、家賃が勤務先の日本人の中で一番安かった。

日本人が多く住む他のコンドミニアムでは、門番がいても大抵は居眠りをしていたり、車や歩行での通行がほぼ自由だったりする所が多かった。しかし、Paradiumには怖い顔をしたインド人の門番が常に数名いて、ステッカーが貼ってある住居人の車以外は(運送屋とプロパンガス屋を除いて)絶対に中へ入れなかった。徒歩での来客でも、インターホンで訪問先の住人に許可をとらないと中へ入れない。こういう所なので、管理棟の華人女性たちもすこぶる厳格で、少しでもルール違反をすると、直ぐに違反内容が詳細に書かれた紙がエレベータホールに貼り出された(ちなみに、私は違反したことはなかった)。

    

ある日曜日の朝、車を洗うためにコンドミニアムの洗車場へ行った。華人女性(と思われる)先客がもうすぐ洗車を終えるところだったので、しばらくの間世間話をしながら待っていた。

すると突然、その女性が「Are you Japanese ?」と尋ねてきたのである。先方も私のことを華人と思っていたらしいが、やはり華人と日本人では英語の発音に違いがある。もちろん「Yes, I’m a Japanese living here」と答えたのだが、すると今度は日本語で「ああ、やっぱり日本人ですね」と話しだしたのだ。さらに驚いたことには、「もしかしたら、○○○の○○さんじゃあありませんか」と仰るのだ。

これには度肝を抜かれた。初めて会った人が、どうして私の勤務先や名前を知っているのだ?

流暢な英語だったので現地の華人女性だとばかり思ったのだが、実は日本大使館に勤務している方の奥様だった。私の勤務先の日本人社員の奥様から、茶飲み話で情報を仕入れていたようだ。あぶない危ない、どこに魔の手が潜んでいるか、わかったものではない。

部屋の窓からはKL市内が一望できた。年を追うごとに新しい建物が建設されたので、窓から見える風景も次第に変わっていった。観光の名所となった高さ421mのKLタワーが建ち、やがて20世紀の建造物で世界一高い452m 88階のペテロナスツインタワーが天空に伸びていった。

KLタワーが完成に近づいた頃、タワーが傾いているという噂がKL市民の間で囁かれるようになった。部屋の窓から見る限りでは垂直のように思われたが、なだらかな起伏の多いKLでは、見る場所によって錯覚があったのかもしれない。この噂は次第に大きく広がったため、ついに政府当局が「KLタワーは傾いていない」という声明を発表した。いかにもマレーシアらしい出来事だと思った。

下の画像は、KLタワーが次第に高くなってゆく様子を部屋の窓から撮影したものである。時を同じくして建造された手前の建物は、Jalan Ampang沿いの小野ラウンジがあった所の隣のビルである。

 

 

 

 

 

 

ペテロナスツインタワーは、以前は競馬場だったKL中心部に建てられた。ここはKLの幹線であるJln.Tun Razak/Jln. Sultan Ismail/Jln.Ampangに囲まれた場所で、当時はゴールデントライアングルと呼ばれていたが、後にはKLCC (KL City Centre)と呼ばれるようになった。

空中で繋がった2棟のうち、1棟を日本企業が、もう1棟を韓国企業が建設を請け負った。深夜でも眩しいほどの明かりをつけての突貫工事で、高さが半端でないだけに、そうとう危険で厳しい作業だったに違いない。

KLには日本びいきの現地人も多く居て、日本企業が担当している方の棟が1階分先行しているとか2階分高いとか、よくお世辞を言われたものだ。

 

 

 

 

 

マレーシアの国花はハイビスカス(マレー語でBungaraya:偉大な花)であるが、生活の中に浸透しているのは何といっても洋ランである。KLでは洋ランを安価で買い求めることができる。

綺麗な花が咲いている洋ランの鉢植えをたくさん買いこんで、ベランダに置いた。ところが、買った時に咲いていた花が終わった後、再び開花させるのが非常に難しいのである。日本で育てるのと違って洋ランの原産地で育てるわけであるから、簡単に花をつけると思っていたのだが、そうではなかった。

何とか花を咲かせようと四苦八苦し、本を買って勉強したり、ブースターと称する洋ランの開花促進剤を使ったりした。

試行錯誤を繰り返した結局、直射日光が強過ぎるのが原因だとわかった。洋ランはもともと密林の下草であり、日陰に咲く花である。ベランダでは一日中強い日差しにさらされるので、これが良くなかった。

対策としてベランダに日除けのネットを張ることにしたが、コンドミニアムには厳しい規則があって、ベランダに置いてよい物には大きさ、形状、色など細かな制約があった。洗濯物などを乾すと外観が悪くなり、建物の価値が下がるからだ。規則違反にならないように管理棟の華人女性からアドバイスを受け、なるべく目立たない色のネットを購入した。これが功を奏して、いくつかの洋ランを再び開花させることができた。

洋ランの花は、日本へのお土産としても喜ばれる。本当は市内の花屋で買えば安いのだが、日本の税関検査で手こずる場合があるので、空港の土産店で購入した方が無難だ。根の付いたままの鉢植えを日本に持ち込むのは非常に難しい。

 

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