東海岸と北の国境

 

マレーシアは西(マレー半島)と東(ボルネオ島)に分かれている。KLがあるのは西マレーシアで、マラッカ海峡に面した半島の西岸近くにある。

一方、マレー半島の東海岸は南シナ海に面している。幅の狭い半島であるから、KLからほぼ真東にあたる町Kuantan(クアンタン)まで半島を横断しても直線距離で200kmほどしかない。途中は山間部が多く、交通渋滞するような町も無いので、3時間ほどのドライブで行き着ける。ただし、途中にはスピード違反取締りのカメラが多数設置されている。

東海岸へ通じる道は一般道なので、沿道にはいかにもマレーシアらしい景色が広がっている。KLを訪れる観光客の多くは、空港から市内まで高層ビルが立ち並ぶ高速道路を走ってくるが、そこで見る景観はマレーシア近代化の一面に過ぎない。

 

    

 

KLのある西海岸の海辺は、河川から流出する泥で茶色に濁っている。しかし、東海岸の海は澄み切った青色をしていて、いかにもトロピカルな感じである。

マレーシアには雨季があるが、KLのある西海岸では雨季をはっきり感じさせるほど雨は降らない。それとは対照的に、南シナ海から吹きつける強い季節風の影響をうける東海岸では、乾季と雨季で気象がまったく異なる。乾季は穏やかな海も(下画像左)、雨季には空が厚い雲で覆われ強い風で海は荒れる(下画像右)。

 

   

 

東海岸の家々は、家全体が地面から持ち上がっている、いわゆる高床式になっているものが多い。乾季にこのような家を見ると、どうしてなのかと不思議に思うが、雨季に訪れるとその理由がよく理解できる。

雨季の東海岸では、毎日のように降り続く雨で地面に水がたまり、その中に家の土台が水没してしまう。こうした気象条件の下では、必然的に高床式の家屋が求められるわけだ。このような構造によって家自体は安泰だと思うが、家への出入りや交通アクセスなどは非常に不便であろう。東海岸はマレー系住民の比率が圧倒的に高く、中華レストランなどは滅多に無い。クアンタンの露天市場はKLとはやや趣が異なり、ここでの主人公はマレー人女性である。

 

 

 

 

 

 

 

クアンタンから国道2号線を北へ20kmほど行った所がCukai(チューカイ)で、ここにはアジアで初の「地中海クラブ」がある。日本を始めとして、世界中から観光客が訪れる。クアンタンには空港があるので、海外からのアクセスもKL国際空港経由で簡単である。

マレーシア駐在の日本人家族は、たいてい一度は「地中海クラブ」を訪れて休暇を過ごすようだ。私も滞在してみたかったが、貧乏であることと、単身では退屈するだけだと思ったのでやめた。こういう外国人向けの施設というのは、たいていお金がかかる。

 

 

 

 

 

Cukaiからは国道3号線に乗り、東海岸をどんどん北上して行くと、ついにはタイと国境を接する町Kotabahru(コタバル)に到着する。クアンタンからは、一般道を約300kmのドライブである。

どこの国でもそうだが、外国人向けのホテルは宿泊料が高い。高級ホテルは施設、サービス、セキュリティなどそれなりに整っているわけだが、旅の途中で一夜を過ごすだけならば現地人向けのホテルが経済的である。最高級ツインルームで、一泊RM50程度(1700円で、二人でも同じ料金)である。もっと安い部屋はいくらでもあるが、やはり温水シャワーとエアコンは欲しい。

コタバルは大きな町である。町の中心部には巨大な屋内マーケットがあって、新鮮な野菜やフルーツなどが豊富だ。民芸品として、凧や扇のような飾り物がよく知られている。

 

 

 

 

 

 

コタバルの海岸はウミガメの産卵場所として有名で、国から特別保護区に指定されている。保護されているはずなのに、市場ではウミガメの卵が売られているので聞いてみたところ、保護区以外の浜辺で採ったものだと言う。ゆで卵を買って食べてみたが、何となく罪の意識がして旨くなかった。

東海岸のマレー女性は、誇りと気位が高い。KLの露天市場では値切り交渉をするのが普通だが、ここでは交渉によほど注意しないと、売り手の女性が怒り出して買えなくなる。その代わり、表示してある価格が最初から妥当なものだ。外国からの観光客など少ない土地柄で、現地の人々の生活市場という感じが強い。

ここは国境の街なので、橋を1本渡ればタイである。正式にタイへ入国するには当然パスポートが必要で、出入国する人を運ぶために橋の上を走るバイクが商売になっている。パスポートを持たない現地の人々は、橋を渡らずにボートで密かに川を往来する。

地理的にタイと接している関係から仏教文化の影響が強く、タイの寺院でよく見られる巨大な寝仏像を納めたお寺もある。

 

 

 

 

 

 

コタバルからは進路を西に転じて、マレーシアとタイの国境沿いに再び半島を横断することになる。このルートは山岳地帯を300kmほど走るので、暗くならないうちに走り抜けるためコタバルを夜明け前に出発した。

狭く曲がりくねった国道4号線を、西へ向かって慎重に走る。万一このような田舎で人身事故を起こせば、村人の袋たたきにあって殺される可能性が高い。マレーシアの山村部で人身事故を起こした場合には、ただちに現状を離脱して警察署へ駈け込むべきで、法律的にも問題ない。

しかし、これは決してマレーシアの人々が凶暴だということを意味するものではない。家族や友人が何らかの被害にあった場合、「目には目を、歯には歯を」というのがイスラムの教義であるから、それに基づいた行動なのである。長年にわたって中東での軍事衝突が問題になっているが、どの国にも固有の文化や宗教があって、それらを理解しない他国介入が幸福をもたらすことはない。

北の国境付近はテロ組織が出没する関係から、1992年まで夜間戒厳令が敷かれていた。私がここを走ったのは、戒厳令が解かれて間もない頃だった。当時の道路はところどころ未舗装で凹凸の激しい区間があり、要所にはマレーシア軍が検問所を設けていた。若い兵隊には英語が通じないので困ったが、パスポートを見せながら「Tokyo Jupun」と言うと通してくれた。

このルートは景観が優れている。遠くにTitiwangsaの山並みを望みながら、Temenggur湖の上にかかる橋を渡って行く。訪れる人も少なく、南国の大自然がそのまま維持されている。本当はゆっくり観光したかったが、明るいうちに国境付近を走破するために先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

国道4号線はFulu Perakで終点となり、そこからは国道76号線で南西方向に走り、Kuala Kangsarで西海岸の国道1号線と合流する。

マレーシア北部では稲作が盛んである。二毛作が可能なので、効率的でもある。ただ、日本の田んぼのように手入れが行き届いているわけではなく、どこまでが稲でどこからが雑草なのか分からないような所もある。稲の背丈も揃っているわけではない。しかし、コブラなどの毒蛇が多い国なので、草取りのために田んぼへ入ることは出来そうにない。

 

 

 

 

KLを出発して東海岸のクアンタンからコタバルにまわり、そこから北の国境沿いに再び西海岸へ出てKLへ戻るコースは、走行距離が1000km以上のドライブで、観光しながらなので3泊4日を要した。現在では道路がより整備されて東海岸にも高速道路が走っているが、外国人が気軽に行ける旅ではない。

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