南国のフルーツ

熱帯に位置するマレーシアでは、年間を通して数え切れないほどのフルーツを味わうことができる。都市部の露天市場では比較的価格の高い品種改良されたフルーツが主体となるが、郊外の路肩などでは野生に近いものまで手頃な価格で売られている。緑のジャングルとヤシ畑や果樹園が多いマレーシアだが、日本で多くの人たちが苦しむ花粉症がこの国には無い。

 

          

        

        

 

フルーツの原産地だけあって、露天市場には多くの果物屋さんが軒を連ねている。その日の朝に収穫された新鮮なものばかりで、買ったその場ですぐに皮をむいて食べるのもマレーシアならではの楽しい味わい方である。

露天市場には、各種フルーツを小さく切って発泡スチロールの皿に盛り合わせたCutting Fruitsと称されるものも売られているが、これは腹をやられる危険が大きい「なまもの」の代表格である。フルーツ自体は問題ないのだが、カットする時の包丁やまな板が汚れているからだ。フルーツはやはり、収穫された時のままの姿で購入するのがベストである。

 

    

 

数あるフルーツの中でも、最高峰は何と言ってもDurian(ドリアン)である。果物の王様King of Fruitと言われるに相応しい香りと味を持っている。現地でも比較的高価なもので、庶民的な果物とは言えない。

ドリアンはアルコールと反応して発酵するので、注意が必要である。ドリアンを食べた後にアルコール類を飲むと、腹が膨れてパンクする危険がある。どうしても一夜のうちにドリアンと酒を楽しみたい場合には、先に酒を飲んだ後でドリアンを食べればよい。アルコールは速やかに体内に吸収されるので、後から食べたドリアンが影響されることはない。

 

          

 

上の画像はジョホール州で撮影したドリアンの木で、かなりの大木である。太い幹に、大きな実が直接付いている。実が熟すると、早朝に地面へドスンと落ちる。この完熟した実をその日のうちに食べるのが、ドリアンの最も美味しい食べ方である。完熟する前に収穫されたものは日持ちが良いが、味が劣る。ジョホール州とペナン州が、味の良いドリアンの産地として有名である。

 

 

ドリアンは好き嫌いが激しいフルーツである。ドリアンが嫌われるひとつの理由は、独特の香りである。かなり遠方からでも存在がわかるほどの強い香りで、ホテルやタクシーには持込が禁止されている。ドリアン愛好家にとっては実に優雅な香りで、甘酸っぱい匂いが漂って来るだけでヨダレが出るのだが…。

ドリアンが嫌われるもうひとつの理由は、最初に食べたドリアンが美味くなかったからだと考えられる。ドリアンには当たり外れがあって、味にバラツキが大きい。美味しいドリアンを選ぶには、それなりの熟練が必要とされる。

美味しいドリアンの選択は、まず外観の観察から始まる。香りが強く、形が整っていて、ほどよい大きさのものを選び出す。次に、選んだドリアンの表面に専用の包丁で一辺が2cmほどの三角形の窓を開けてもらい、中身を慎重に確かめる。適度な硬さ、甘い香り、銘柄に見合った光沢ある色彩などが高い評価の条件である。

この時点で気に入らなければ、ダメと言う。高価なものだけに、売り手も買い手も真剣である。お客の評価が得られなかった窓明けドリアンは、キャンデーなどの加工用に転用される。

ドリアンにはいろいろな銘柄があって、人気があるのはD24とD2であり、味も良いが価格も高い。黄色のジューシーな実は、まさに果物の王様である。KL市内の露天市場に行くと、あちこちのドリアン屋台にD24の表示があるが、これらの殆どは類似品種の偽物であるから、価格交渉すれば大幅な値引きがある。

 

ドリアンには、収穫期がある。ジョホール産とペナン産では収穫期がずれてはいるが、それでもマレーシア産のドリアンが店頭から姿を消す期間が何ヶ月かある。その時に登場するのが、隣国タイからの輸入ドリアンである。

同じドリアンでも、マレーシア産とタイ産では外観に大きな違いがあり、誰にでもすぐ判別できる。タイ産ドリアンは形状が大きく、うろこ模様が粗く、香りが弱い。そして何よりも、味が劣るのである。サイズは大きいが、価格はマレーシア産よりもやや安い。

 

タイの人々は、マレーシアで買うタイ産ドリアンは完熟前のものを輸送したから味が悪いのだと言い訳する。確かにそれは考慮すべき点ではあるが、決してそれだけではないと私は思うのである。なぜならば、バンコクで食べる新鮮なタイ産ドリアンでも、マレーシア産の味に遠く及ばないからである。

マレーシアの現地スタッフと一緒にタイへ出張して、タイ産のドリアンをご馳走になったことがある。その席でタイのスタッフたちがわざわざ言ったのは、「ほらね、マレーシア産のドリアンよりも美味しいでしょう」という挑発的な言葉であった。ご馳走になっている立場ではあったが、これには承服することができない。「いいえ、タイ産も美味しいですが、マレーシア産はもっと美味しいです」と返答した。そこから、ドリアンについての果てしない応酬が始まるのである。まるで、国家の威信をかけたような言い争いである。結局、我々マレーシア側スタッフはお互いに顔を見合わせながら、「ドリアンの本当の美味しさを知らないタイの人たちは、かわいそうな人たちである」と結論付けたのだった。

最近、マレーシアとタイの両方に駐在したことのある友人と、ドリアンの好みに付いて話す機会があった。その友人が言うには、これは文化の違いからくるもので、マレーシアではウエット(湿気)が好まれ、タイではドライ(乾燥)が好まれるという。確かにマレーシア産のドリアンが柔らかくてジューシーなのに対して、タイ産ドリアンはどちらかと言うとパサついた食感である。

 

ドリアンが「果物の王様」と呼ばれるのに対して、「果物の女王」と呼ばれるのはMangosteen(マンゴスティン)である。赤紫色の果皮に包まれた白い実の渋い甘みが、なんとも言えないほど素晴らしい。露天市場では枝に付いたままの状態で売られていることも多く、安価で日持ちの良い、マレーシアの代表的フルーツである。マンゴスティンは皮の剥き方にコツがある。拳で強く握りしめて、果皮を潰すようにして割るのである。この時、皮から出る紫色の果汁を服などに着けると、洗ってもとれないので注意する。

 

マレーシアでは右画像のRambutan(ランブータン)も身近なフルーツである。価格が安いので商売として成り立ち難いからと思われるが、都市部の露天市場ではあまり売られていない。

ランブータンやライチなど日常的なフルーツは、郊外の道路肩で地元民が露天を出し、枝に付いたままの状態で売っている。非常に安価であり、価格交渉は必要ない。休日にドライブした時など、車を止めてよく購入したものだ。

 

少し遠出して山間部の露天市場へ行くと、名も知らないフルーツがたくさん店先に並べられている。ミカンも売られているが、日本のミカンと違って実の中に種があり酸味が強い。

マレーシアの華人たちは旧暦正月を盛大に祝うが、その時に欠かせないのがミカンである。マレーシア産のミカンは酸っぱ過ぎて正月用には向かないので、木箱に入ったものが中国本土から輸入される。これは庶民の必需品であることから、政府によって価格が統制されていて、どの店で買っても同じ値段である。マレーシア産よりもずっと甘みがあって美味しいが、やはり実の中に種があって皮が厚く、日本のミカンとは比較にならない。

 

日系スーパーで売られているフルーツは、パパイヤ、マンゴー、プラム類、ぶどう類、トマト、林檎、バナナ、パイナップル、スターフルーツなどで、種類は非常に豊富である。これらは現地産か周辺のアジア産で、日本からの輸入品は殆どない。手に入らなかったのは桃くらいで、傷みやすいからだと思われる。

マレーシアでの生活では、南国のフルーツを心ゆくまで味わえるのが大きな魅力である。

 

 

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